凌ぎを削る納豆業界を生き残る
保谷納豆 <下>

 保谷納豆は「大手がやれない、やりたがらない、やりにくい商品開発」を社是に掲げ、他社製品と差別化を図っている。独自の「炭火造り」製法は納豆菌の特性を熟知して、そのおいしさを最大限に引き出している。

煮豆をパック、その後発酵室へ

 東京の納豆の歴史は古い。糸引納豆は江戸の寛政年代に「たたき納豆」として初めて江戸の町で造られた。昭和35年前後は100軒近くの業者が納豆を製造していたが、現在東京では10軒ほどになってしまった。
 納豆業界はし烈な価格競争の中で中堅企業が撤退し、上位企業に集約が進んでいる。この集約により、製造拠点が北関東に集中していた業界地図の「脆さ」を震災は浮き彫りにした。
 「都内をはじめ多くの同業者が淘汰された姿を見てきており、常に危機感を持って取り組んでいる。しかし、その危機感から委縮などせずに、他ではできない商品開発に果敢に挑戦しなければならない」と木内節雄社長は意気込む。

発酵室で炭火をたく七輪
同社は20ほどの発酵室を構える

 同社が特許を取得している「炭火造り」は、室(むろ)の中で七輪を使って炭火をたく。木炭は岩手県産の楢の木炭を使う。作業中、室温は40℃以上になり数時間もすると室内はCO2が充満する。酸素がなければ納豆菌の働きは一時ストップする。しかし発酵したくてもそれができない状態となる。この時、納豆菌は自分の命を守るため体内活動を徹底的に減らし、休眠状態に入りじっと耐える。そこに、今度は一気に酸素を送り込むと、菌は猛烈な勢いでパワフルに活動を始める。この時の納豆菌の貪欲な活動がおいしさにつながる。
 発酵室内には備長炭を敷き詰め、炭の特性による空気清浄や脱臭、吸湿性効果などを活用している。

発酵室内に備長炭を敷き詰め、空気清浄や脱臭、
吸湿性効果などを活用している

 この「炭火造り」は、同社が昭和26年の創業以来守ってきた製法。当時、もともと野菜を貯蔵するための地下室を改造、拡大して造った天然の発酵室内の中央に大きな七輪に炭をおこし熱源として使用していた。夜中に換気口を開けてCO2を抜き、新鮮な空気を送り込み納豆菌の活動を促す発酵方法。これが炭との出会いだったという。
 昭和40年代に電気による温度湿度管理ができる発酵室を開発した。しかし、近代的な発酵室になっても炭に対するこだわりを捨て切れず、納豆菌にとって人為的に創業当初と同じ環境を作れないかと考えて、現在の炭の活用方法を生み出した。炭を熱源としてではなく炭酸ガスを発生させるものとして利用し、品質の安定した商品製造を可能にした。

 差別化する商品開発に挑戦する取り組みはこれだけではない。
 日本橋の老舗かつお節メーカーが納豆菓子を昨年秋に発売したばかりだが、同社はその原料となる納豆を提供している。厳選した北海道産の極大粒「鶴の子大豆」を原料とし、凍結乾燥(フリーズドライ)させることで納豆菌までも生かすことができる新しい菓子系の発酵食品として人気を博している。
 「この納豆菓子の事業を始めてからまだ間もないが、売上げは好調。基幹事業の1つに成長するに違いない。これからさらに忙しくなるだろう」と木内社長は期待している。

フードエンジニアリングタイムス 2011年5月25日号掲載