進化する食品工場(下)
中設エンジが読み解く10年後の未来像

 中設エンジ(本社名古屋市、松本吉晴社長)は工場建屋の建築から空調、給排水衛生、生産システムまで工場全体をプランニングする総合エンジニアリング企業。長きにわたって食品工場の設計施工に携わり、その移り変わりを見てきた。今年3月17日号の新聞「冷食タイムス」では、生産現場を熟知している幹部社員らに集まってもらい、希望的観測も含めて10年後の未来像を話し合った。国内市場の縮小や人手不足など困難な課題をどう乗り越え、どこまで進化できるか。今回は昨年末に行った座談会の内容を報告する。

座談会出席者
渡辺裕正 執行役員大阪事業本部長
野々村和英 執行役員新規ビジネス室長
喜多道一 エンジニアリング本部長
伊藤健一郎 新規ビジネス室長補佐
内井剛 東京事業本部営業統括部長
金岩聡 広報室副室長
(役職は2020年5月現在)

       左から伊藤室長補佐、渡辺本部長、野々村室長、内井部長

安全安心に対する意識は
20年前と大きく変わった

    喜多本部長

 ――20年前に比べて食品工場はどのように変わったか?
 喜多本部長 製造現場の衛生区分や動線、建材など、いずれの面でも衛生レベルは低かった。工場内部は至る所で結露が発生し、カビだらけ。HACCPという言葉すら誰も知らなかった。

 また、当時は利益を上げるために食品偽装事件が続出し、異物混入や食品テロなども相次いだ。給料日に多いと聞いたことがある。

 最近は工場内部をあえて見せる傾向にある。消費者は「こんなきれいな工場で作っているのか」と安心する。主婦たちの中にはHACCPを知っている人も増え始めた。こうした安全安心の情報が広がったおかけで工場の質が上がっている。

 渡辺本部長 流通大手などは欧米の国際安全基準を採用して安全ルールを確立しており、適合しない食品工場とは取引きしない。

 特にコンビニベンダーの工場はグレードアップし続けることが求められる。当社が手がけたパンのベンダー工場は、当初は基準を満たしていたが、コンビニの要求基準が高まるたび設備改修を迫られることが多かった。

 商品の材料や製造方法などが変わるため、設備を切り替える必要が出てくる。安心を担保できない食べ物は売ることができないということ。安心は建物から確保する必要がある。

ロボット活用には
発想の逆転があってもいい

食品機械の展示会ではロボットソリューションの
提案が増えている(昨年のFOOMA JAPANから)

 ――人手不足対策が深刻だ。
 野々村室長 食品工場は以前から慢性的な人手不足だが、今は人が本当にいない。10年前は設備投資をする工場から費用対効果を求められたが、今は問われない。

 伊藤室長補佐 機械を導入して1人分を省人化するとなった場合、これまでは数百万円程度に抑えていた。いまは数千万円かかっても導入せざるを得ない状況だ。

 野々村室長 数年前から「FOOMA JAPAN(食品機械工業展)」でロボットの提案が急速に増えた。当社への相談案件も多い。

 ただ、食品は柔らかく不定形が多いため、現時点では導入が難しい。唐揚げをピックアップするにしても、不定形の唐揚げにハンドを合わせるのではなく、発想を逆転してロボットがつかみやすい唐揚げをつくったほうがいい。

 渡辺本部長 ロボットを導入するには工場全体で考える必要がある。一部分だけ自動化しても成り立たない。原料入荷から加工、包装、出荷にわたって全体プランニングが重要。食品を盛り付けしやすいよう、容器をロボットの作業に合わせることも考えられる。

 ――ロボットの導入で具体的に進めているプロジェクトはある?
 喜多本部長 食品スーパーの工場で協働ロボットがジャガイモの芽を取り除く実証実験を進めている。従業員20人で行う作業にロボットが加わった。汎用のアームロボットをカスタマイズして専用機を開発しており、当社のエンジニアリングの知見を活かした。

 ロボットの作業スピードは遅いが、深夜を含め24時間働き続けることができる。実験を繰り返して作業量を増やしていく予定だ。

 野々村室長 当社は食品工場の自動化システム構築を推進する「生産システム本部」を1月に立ち上げた。エンジニアリング本部内にあったシステム設計部を格上げし、システム導入の提案を強化する。

 生産ライン計画の初期段階でユーザーの要求や課題を見える化し、自動機やロボットの導入、生産管理や需給計画、製造実行などのシステム構築を提案する。

 AIやIoTも活用する。工場内部のシステム設計を先に固めることで、予算内・予定工期内でプロジェクトを遂行する。

女性が働きやすい環境は
口コミで広がる

 ――近年は女性が働きやすく、地域に開かれた食品工場が増えているように感じる。
 喜多本部長 工場で働くパート従業員の7〜8割は女性だ。衛生服を着て働いた後、身ぎれいにして帰りたいというニーズは多い。そこでパウダールームやきれいなトイレがあれば口コミで広がり、パート募集でも有利になる。パート従業員は主婦が多く、女性が働きやすい環境づくりは重要だ。

 内井部長 従業員を大切にする考え方が定着してきた。そうでなければお客様に良い商品を提供できない。従業員のために催し物を開いたり、商品を安く提供したりしている。定着率を高める目的もあるだろう。今は時給が10円でも高い職場があればすぐに移ってしまう。

 また、工場見学など食品工場のオープン化が広がっている。ある洋菓子メーカーは作業場をガラス張りにしている。消費者に見せながら売るのが時流だ。体験型も増えており、食品工場と地域社会の一体化は今後も進むだろう。

盛付け作業をサブスクで
請け負う新サービスも

 ――10年後の未来像をどのように描く?
 喜多本部長 原材料や完成品の搬送はロボットや自動搬送車(AGV)が全て行っているだろう。トラックへの詰め込みもおそらくロボットが担っているはず。

 希望的観測だが、ロボットが不定形で柔らかい食品をつかむことが難しいのであれば、人の作業負担を軽減する機器があってもいい。その昔、鍵盤が光って順番に押さえれば曲が弾けるキーボードがあった。同じ理屈で、弁当容器の中が光り、光ったカ所におかずを何も考えずに盛り付ける。定量を入れれば、次のカ箇所が光る。そうして順番に盛り付ければ簡単にできるかもしれない。

 重さを量ったり、考える時間をなくすことができれば、人間のほうが作業が絶対早い。ロボットがスピーディに惣菜を盛り付けることは、この先10年程度では不可能だろう。

 伊藤室長補佐 最近はサブスクリプション(定額課金)が注目を集めている。盛付けの作業をサブスクで請け負うサービスが新たに生まれるかもしれない。食品工場は作業員を借りる、もしくは作業そのものを定額で契約するというスタイル。減価償却が必要ないため、バランスシートに載せなくて済む。どの工場も同じような作業内容であれば汎用モデルとして展開できる。

人工肉を3Dプリンターで
作る時代が到来する

    金岩副室長

 渡辺本部長 ユーザーからは、この先も少子化や高齢化が進んで人手不足が深刻化するならボタン1つですべて生産できるようにしてほしいと言われる。従業員数名で何十万食も作るような工場。今は難しいが、工場の全体から変えることができれば可能性はある。

 実際、当社が手がけた医療介護食の工場は1日あたり10万食を生産するが、生産システムの構築から手がけて生産人員を最小限まで省力化している。

 金岩副室長 一次産業の担い手不足は今後も続くため、陸上養殖や植物工場が増えるだろう。「人工肉」も注目が集まり、3Dプリンターで作る流れが強まるかもしれない。異物検査では異物の「組成分析」ができるようになるだろう。

 現在の異物検査は異物の有無を検出するが、髪の毛や虫などの組成で判断できるような世界になるかもしれない。組成分析のデータを蓄積していけば、照合も簡単にできるだろう。

 野々村室長 海外ではアニマルウェルフェアも声高に言われ始めており、牛や豚、鶏肉の原料費は上昇圧力が強まる。そうなると日本の弁当は今の販売価格では作れない。

 日本の弁当は海外に比べて安すぎるという課題もあるが、人工肉なら3Dプリンターを使って同じ形に作れるため自動化は簡単だ。人工肉の唐揚げも将来は可能になるかもしれない。